法務の組織力を強化する秘訣とは〜マネージャーとしての取り組みと採用にかける想い〜 – ロコガイド 片岡玄一法務部長-<後編>

法務の仕事は職人的でブラックボックスになりがちとも言われますが、株式会社ロコガイドでは徹底したマニュアル化を進めています。

法務部長の片岡玄一氏は、マネージャーとして、チームメンバーが自発的に動ける仕組みづくりに注力。気づいたらマニュアルが出来ていたこともあるそうです。

チームの力が問われる今、法務の組織力を強化する取り組みと採用にかける想いについて伺いました。

〈聞き手=山下 俊〉

目次

法務部内の手順は徹底してマニュアル化

山下 俊

前回は契約審査に関するお話を伺ったのですが、法律相談などから生じるナレッジはどのように管理されていますか?

片岡 玄一

それは課題の一つですね。ナレッジは大きく分けて①知識、②手順、③各社固有、の3つの情報があると思っています。

片岡 玄一

1つ目の知識は、属人的なもの。勉強している人が沢山持っているし、勉強していない人は持っていません。マネージャとして、「知識を得ることはいいことだ」っていうムードを醸成するようにしています。例えば読書会では、「今日はこれを読む」と宣言をして、50分使って読んで、残りの10分でタメになったことをフィードバックしあう、ということをしています。忙しい中ですが、スケジュールを先に押さえてやってます。

株式会社ロコガイド 法務部部長 片岡玄一氏
山下 俊

手順の方はいかがでしょうか?

片岡 玄一

手順については、とにかくマニュアル化とその共有を徹底しています。字が読めばわかるレベルで「この通りにやったらできる」という形のマニュアルを作っています。規程改定のマニュアルの例でいえば、以下の粒度でステップが書かれています。

片岡 玄一

1. 規程集(URLの形)から改定対象の規程を開く
2. 提案モードで改定内容を入力
3. 編集が終わったら●●(上程用スクリプト)を起動、取締役会に上程
4. 取締役会決議後、提案内容を反映

片岡 玄一

手順が決まっている作業は運用が固まったタイミングでマニュアルを作るようにしているので、ほとんどの作業は初めて担当する者でもそれほど引き継ぎの負荷なく対応可能です。対応できない場合でも、「マニュアルの何番で躓いたか」みたいな話ができるので、サポートも容易な状態です。また、もしマニュアルに不備があれば、相談不要で各自が直してOK。ただ、直したことを必ず共有するようにしています。

山下 俊

作るのは結構大変そうだと思われますが…

片岡 玄一

マニュアルをゼロから整備するのはとても大変だと思います。ただ、当社の場合はマニュアル化できそうな業務を見つけ次第、順次マニュアル化しているので、それほど負荷が高いという感覚はありません。また、自分だけでなく、部員各々が能動的にマニュアルを作成してくれるのも大きいですね。「これ、マニュアル化できそうだな」と思った業務は、たいてい誰かが既にマニュアルを作っている状態です(笑)。

片岡 玄一

そんな具合なので、今は業務の手順で迷った時は、まずマニュアルを探すのが「しぐさ」になっています。

片岡 玄一

また、マニュアルと似たような取り組みとして、パターン化できる対応については、プレイブックという形で残していくようにしています。例えば「利用規約を変更したい」と相手方から要請された時の対応方針などです。これも対応方針で相談を受ける際に、「プレイブックの何番までやった?」「どこで躓いた?」みたいな話ができるのが良いです。

山下 俊

最後に3つ目、各社固有の情報ですね。そもそもどういった情報でしょうか?

片岡 玄一

この話を誰に聞くべきかや、今誰がその業務を担当しているのかといった汎用性のない知識です。こういった情報はどんどん変わっていくので、マニュアル化には適していません。

片岡 玄一

そのため、このような情報は、知りたくなったタイミングで都度部内で「誰か知らない?」と聞けばよいと思っています。そして、マネージャーとしては、メンバーが気軽に、いつでも、何度でも聞けるような雰囲気や関係を作ることにこだわってます。

片岡 玄一

ちなみに、これに限らず「ロコガイド法務のあるべき姿」は、ドキュメントにまとめて明文化しています。

業務スタイル・Slackのメンションの考え方といったものから、カレンダー上の空き時間にはいつでも断りなくミーティングセットしてOKといった細かいことまで、ストレスなく業務に集中できるよう、メンバー全員で合意した内容を取り決めて、定期的に見直しをしています。

埋もれた「すごい人」が見つかる採用を目指して

山下 俊

現状法務は、片岡さん含めて3名の体制ですが、2人目のメンバーを採用する際に、意識されたポイントはありましたか?

片岡 玄一

まずは最低限の知識があることですね。この点については、簡単なテストで確認していました。テストといっても、著作権を譲渡する契約条件には「著作権法第27条と第28条の権利を含む」と付記されていますが、その著作権法第27条と第28条には何が定められていますか、といった程度の軽いものです。

片岡 玄一

また、書面からは見抜くことが難しい「強み」については、詳しくお話を伺うようにしています。例えば、同じくらいの年齢・同じくらいの経験年数の人を100人集めたとして、あなたがトップ3に入れそうなものはありますか、という質問です。

片岡 玄一

この質問に自信を持って即答できる方はなかなかいないと思いますが、そこから話を広げていくことで、大切にしていることや目指している方向性が見えてくることが多いんです。

山下 俊

ある程度具体的な回答であれば、別に本当にトップ3でなくても構わないいってことですね。

片岡 玄一

全く問題ないです。そもそも、「契約法務についてトップ3だ」ってご本人に言われても、すごい自信だなぁという感想を持つだけで、それをもって採用しようと判断するわけではないですからね。その意味では、何かしら答えてもらって、「それってなんでなの?」って会話ができれば充分です。

片岡 玄一

今のメンバーにも同じ質問をしているんですが、答えは覚えていないんです。答えの内容が重要なわけではないので、極端な話、「ない」っていう答えでも別にいいんですよ。「トップ3は難しいけど、トップ10だったらいけます」でもいい。

片岡 玄一

その方が何をどういう武器にしようとしているのか、その武器を磨くために何をしてきたのかについて掘り下げた話ができることが重要だと考えています。

山下 俊

法務の採用の話、とても参考になりますね。我々も真似したいと思いました。

片岡 玄一

スキルを見るパートと人を見るパートを明確に分けることは、すごく重要だと思います。そして、スキルは単なる足切り要素でしかないので、そこにはできるだけ時間をかけずに、画一的にサクサク終わらせて、その分候補者さんと時間をかけて向き合いたいと思っています。

片岡 玄一

あと、これは個人的な想いでもあるのですが、あまり世に知られていないけれども埋もれたすごい人はたくさんいらっしゃるので、その個のすごさに着目した採用が今後もっと発生していけばいいなと思っているんです。

片岡 玄一

今は、採用側が埋もれたすごい人を発見する手立てを持っていないがゆえに、エージェントを使って良い人を探すことが多いわけですが、何とかそういったチャネルを作れないか…。法務担当者のコミュニティである法務互助会にキャリアというチャンネルを作っている背景には、そういった思いがあります。

片岡 玄一

ですから、法務互助会のメンバーがこのチャンネルで人材募集しているのを見かける都度、法務互助会で見かけた良さそうな人を直接一本釣りしてください、とお願いしています。知見の共有や質問への回答などでコミュニティに価値を提供することを通じて個の良さが見える化され、その良さを頼りに声がかかって採用される、そんな世界を作りたくて法務互助会を運営しているという面はあります。

片岡氏が立ち上げた現役法務限定の「法務互助会」、ナレッジシェアや採用にも活用されている

「法務のイメージが変わりました」

山下 俊

法務以外の社内のメンバーとの関係の築き方についても伺えればと思います。事業部門の方に向けたアンケートなどは実施されていますか?

片岡 玄一

半年に一回、法務のパフォーマンスアンケートをしています。そこで要望されたことを来期の目標に織り込むようにしています。前回のアンケート結果との比較や、項目間の満足度の高低も確認します。満足度は純粋な法務面だけでなく、事業の理解度に関しても質問を入れていて、問題意識を持つようにしています。

ちなみに、ここで希望が多かった内容に関しては、社内研修をやる予定です。

山下 俊

ここまでお聞きした内容からも、事業部からの評価は高そうです。前回、「法務に相談してもらえば100点」というお話もありましたが、相談しやすい空気作りみたいな、工夫みたいなものってありますか?

片岡 玄一

仕組みとしては、前回申し上げたくらいですが、楽しそうにしているというのはあるかもしれないです。眉間にしわを寄せている人には話しかけづらいですもんね。こういうことを言うと、人柄のことを指しているように思われがちですがそういうわけではなく、姿勢・マインドの話でしかありません。

片岡 玄一

別におもしろいことを言って周りを笑わせて欲しいわけではなく、不機嫌そうにしない・舌打ちをしないとか、そういったシンプルなことで全然いいと思います。転職してきた方から「法務の人のイメージが変わりました」と言われると、うまくやれているなと皆で喜ぶって感じですね。

山下 俊

Twitterや社内Slackのアイコンも可愛いですもんね。

Twitterでもおなじみの片岡氏の愛猫「もふ」ちゃん

これを読んでマニュアル化しようと思った方へ

山下 俊

最後に少し抽象的な話ですけど、ベンチャー企業の法務において、重要なことってありますか?

片岡 玄一

ベンチャー企業の法務に特有の重要なことは、ないのではないかと思います。企業の規模等によって、解決すべき課題の内容や最適な解決方法は全然違うとは思いますが、「課題を解決する」という本質的な部分は、どの会社も共通だと思うんですよね。

片岡 玄一

ただ、大企業からベンチャーに来た時は、解決すべき課題やその最適な解決方法が大企業とは違う可能性が非常に高い、ということを意識した方がいいとは思います。逆もしかりで、ベンチャーの一人法務で大活躍して、法務のことはなんでも分かるぜと思っている人が、そのマインドで大企業にいってもたぶんうまくいかないと思います。おそらく課題が違うので。

片岡 玄一

ベンチャー特有の何かというよりも、目の前の課題としっかり向き合うことが大切だと思います。

山下 俊

今日は貴重なお話、ありがとうございました!今日のお話を聞いて、マニュアル化しなきゃ、と思う方が多そうですね。

片岡 玄一

マニュアル化するのが重要なわけではなく、大事なのはあくまで課題に向き合うことですよ。人がやっている施策をそのまま取り入れるのは危険です。ここまで読んで、さっそくマニュアル化しよう!と思った方は、一回立ち止まって自社の課題をまず考えましょうというメッセージは強調しておきます(笑)。

片岡 玄一

逆に、自社の課題を特定してみよう!と思っていただけた方がいれば、良かったなと思います。

山下俊

そうですね。これが片岡さんからの最後の超重要メッセージですね(笑)ありがとうございました!!

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