先回りしてビジネスをサポートできる法務へ-LAPRAS 法務部門責任者 飯田裕子氏-<後編>

前編でご紹介したように、LAPRAS株式会社 法務部門責任者 飯田裕子氏は、自身の経験やキャリアから事業や売上に貢献したいという強い意識を持って法務の仕事を手掛けています。今回は、具体的にどのようにして事業や経営にコミットしているのか伺いました。
今回も、飯田氏が普段アウトプットに活用されているnoteのリンクを散りばめておりますので、詳細が気になった方は、是非合わせてお読み頂けますと幸いです。

〈聞き手=山下 俊〉

経営から求められているミッション

山下 俊

飯田さんが法務として経営から求められているミッションは何ですか?

飯田 裕子

①正確なリスクの把握と、②リスクヘッジできるだけの十分な情報の提示です。
法務に求められる一番の役割は、リスクをきちんとヘッジすること。そのために、まず潜在的なリスクを把握して潰しておく。私の手元で潰せないリスクについては、なるべくノイズのない状態にして経営メンバーが判断しやすいようにしておくことが求められています。

山下 俊

法務の価値を伝えていくことが難しいという問題もあるなかで、経営陣からはどのような評価をされているのでしょうか。

飯田 裕子

事業部側が求めるものを出さなければならないという意味では、全然足りていないですね。経営や事業メンバーの判断材料として信頼してもらえるクオリティにまで追いつかなければと感じています。

山下 俊

それは、経営陣からフィードバックがあるということですか?

飯田 裕子

はい、しっかりあります。
タイミングの遅速、情報の質や伝え方のコミュニケーションの良し悪しなど、事業部・経営の双方からフィードバックは頻繁にもらいます。

LAPRAS株式会社 法務部門責任者 飯田裕子氏
山下 俊

一人で法務を担当されるなかで、「法務の先輩」が必要だと感じられる瞬間はありませんか?

飯田 裕子

先輩が欲しいというよりは、他社の事例や経験、一般的な考え方が欲しくなるタイミングがくるのではと感じています。私の今の最大ミッションは、事業部が欲しいものを渡すことですが、それを乗り越えた先に、「本当に事業部側が欲しいものを出すべきなのか」「リーガルがどこまで事業部に寄り添うべきなのか」問われるタイミングがあると思うんです。

飯田 裕子

ただ現在は、他社の法務の方に勉強会やセミナーを紹介していただいたり、自分で輪読会を主催したり、Twitterで話を聞いたりして、他社の法務の人とのつながりを活かしながらなんとか乗り切っています

山下 俊

現時点で事業部からもフィードバックをもらえているのはすごくいいなと感じました!
事業部門と法務の関係性で見たときに、飯田さんが大事にしていることって、どんなことですか?

飯田 裕子

私のなかで絶対に負けたくないラインが、顧問弁護士なんです。
「これだったら、自分たちで直接顧問弁護士に聞いたほうが早くない?」と事業部門側に思われてしまうと社内に法務がいる意味がないので、そこは強く意識しています。

山下 俊

なるほど!
実際に顧問弁護士に負けないポイントにはどんな点があるとお考えですか?

飯田 裕子

法務部が顧問弁護士に勝てるところは3点あると思っています。
1点目はレスの早さ。少なくとも「今いいですか」と言われたときに、顧問弁護士より先に答える必要があります。2点目は、費用面。私の時給でかけて業務単価を考えたときに顧問弁護士の報酬より高くつくようでは負けてしまいます。

飯田 裕子

3点目は、やはり事業への理解です。
顧問弁護士に説明するのに1時間かかることを、法務が介在することで15分で済ませられるのであれば、たぶん顧問弁護士に直接ではなく法務に相談がきますよね。
もちろん、ちょっと大きい案件だから一から全部顧問弁護士に共有したいというケースもあります。ただその場合でも、私が翻訳者として間に入って説明のコストを減らすことで弁護士費用を圧縮できます

飯田 裕子

いずれにしても、顧問弁護士より先に絶対的に頼られる存在でありたいですね!

山下 俊

こちらのお話に絡むところですが、以前より「顧客を定義する」ことが大事と仰っていますよね!

飯田 裕子

そうですね、法務としては、①当社で働くメンバーと、②当社自体、そして③当社のお客様を顧客として定義しています。この3つがいい感じの三角形になるといいなと。このバランスが、実は顧問弁護士が解約されない条件に近いのかな、と思っています。

山下 俊

それは、事業部門だけがハッピーになっちゃうと、ひょっとしたら、事業の先にいるお客様が、大きなデメリットを被っている可能性があるといったイメージですよね。

飯田 裕子

そうですね。やはり自社の利益を最大化しようと過度に向かっていくと、どこかでお客様に正直になれなくなる可能性があります。当社はエンドユーザーファーストを掲げており、会社全体でお客様の体験や視点を非常に大事にしています。そこに対して、法務も同じ気持ちでやりたいなと。

飯田 裕子

とはいえ、お客様が良くても、社会的にダメなことももちろんあるわけですよね。そういったことをしてしまうと、法人としての評価を落としたり、実害が出る可能性があります。最初は、顧客を事業部門だけにしようとしていたのですが、上記のようなことを考えていくうちに、三つのバランスが大事という結論に至りました。

事業部門のSlackチャンネルにもすべて目を通す

山下 俊

事業部門との関わりという観点から、飯田さんは事業部の会議や打ち合わせに出席されたり、Slackのチャンネルを巡回されたりするという話を伺いました。

飯田 裕子

はい。法務チェックが必要かどうかの判断を事業部のメンバーに委ねている時点で適切な法務チェックができないから、自分から情報を取りに行きたいというのがその理由です。

法務に限らずバックオフィスのメンバーは割と皆、Slackの巡回等はやっていると思います。大前提として、当社は機密情報や個人情報以外はすべてのSlackチャンネルが公開になっているので、事業部の情報が取得しやすい環境です。なので、あとはどこまで情報の洪水に対応していくかという話になります。

山下 俊

それをやるとパンクしないですか?
必要な情報を流してしまったり……。

飯田 裕子

基本的には、リーガルチャンネルにくるものさえ対応しておけば大丈夫な状態にしています
全社的にチャンネルは整理されていて、雑談チャンネルと事業のチャンネルが明確に分かれているので、雑談チャンネルやただ通知が流れてくるだけのチャンネルなど自分が確認する必要のないものは、低優先度のフォルダに入れてあまり見ないようにしています。

山下 俊

Slackを巡回していて良かったなと感じたエピソードを伺えますか?

飯田 裕子

事業部の会話を見ているなかで、絶対に法務チェックが必要で本来ならおそらく私に今すぐ回答してほしいレベルで急いでいるはずの案件なのに、法務チェックに回す余裕がなくなっていることに気づいて、先回りして調べておいてたことがあります。
これ、聞きたくなると思うんで、情報を置いておきますね」って。

山下 俊

未来からきた予言者だ!(笑)

飯田 裕子

そのときは皆、「飯田さん、魔法使えるようになってます。なんで私たちの欲しいことがわかったんですか!!」とすごく喜んでくれました。
当時はちょうど時間の余裕があったので、遊び心も兼ねてやりました。

山下 俊

そういった事業部門の会話の中に自分が出ていくタイミングを判断する際に、何か気にされていることはありますか?

飯田 裕子

あまり気にしていないですね。
Slack上では、サメ🦈の絵文字のスタンプを押す=私が見ていますという意味にしているんですけど、突然サメのスタンプだけ付けておくと、「飯田さんが見てるぞ、なんか問題があるんじゃないか……ざわざわ……」みたいな感じで、皆が法務のこと思い出してくれるようになっています(笑)。

🦈 🦈 🦈 🦈 🦈 🦈 🦈 🦈 🦈 🦈 🦈

事業部・経営との目線を合わせていきたい

山下 俊

飯田さんが、次にやりたいことはありますか?

飯田 裕子

事業メンバーがストレスなく受け取れる情報の出し方をしていきたいという思いがあります。
事業部との目線はかなり合ってきたと思いますが、リーガルの独特な言い回しや論法を私が使ってしまい、受け手側に解釈の負担をかけているような感覚がまだあります。言葉の使い方1つとってもすれ違いが起こってしまうことがあったり。

山下 俊

きちんと共通言語で話す、ということですね!

飯田 裕子

そうです!そこは法務が事業側に合わせにいくべきだと考えています。
事業部メンバーから「これって、こういうことですか?」と聞き返されたら負けだな、と。

飯田 裕子

経営メンバーに対しても同様です。
一人法務は特に目の前の契約書の対応やQ&Aに気を取られて短期的な視点になりがちですが、本来は法令改正や世間の動きなどを考慮しながら、10年後の事業面までケアする必要があると思っています。経営から直接法務に相談されるようなレベルにまでクオリティを上げていきたいですね。

法務の門戸を広げるためには

山下 俊

飯田さんは、新卒で法務を目指す方へ向けた記事を公開されていますよね(下記ご参照)。

飯田 裕子

弁護士の道を諦めて新卒法務を目指したものの、新卒の就活の面接ですべて落とされてしまった経験を振り返ってみたんです。当時の自分に法務の適性がなかったかと言われるとそうではないだろうし、新卒で法務の仕事に就けていれば今よりもっとスキルがついていた可能性もあると思っています。
法務になりたい人がなれない一方で、全然興味のない人が社内異動で法務に回されている状況を実際に体験して、疑問に感じたことが根底にあります。

飯田 裕子

私は転職を繰り返すことで偶然、法務にキャリアを戻すことができましたが、法務になるためには他の道もあるのでは、と。今の自分だったらベンチャー法務で一からやるという選択肢を思いつくことができますが、そうした情報ってほとんどないんですよね。
新卒で法務になれなかった人たちに対して、「法務としてのキャリアの選択肢は残されているよ」と言える存在でありたいです。

山下 俊

そのためには、やはり採用する企業側の意識を変える必要もあるでしょうし、先人達がロールモデルを見せていくという方法もあるのかなと思います!

飯田 裕子

個人的には、今は自分個人で発信をしていくとして、将来的にはやはり業界全体として、法務へのキャリアの軌道修正ができる資格や試験、スクールなどがあれば良いと考えています。

例えば、エンジニアであれば、スクール等に行って0から技術を習得する機会もありますし、自分の得意なプログライミング言語に対してニーズがある企業であればどこに行っても通用しますよね。法務も本来はそういう職業であるはずです。

法務としての熟達度を可視化できるようなスコアや資格、入門者向けのスクールなどが今後充実してくれば、より法務の門戸が広がっていくのではないかと思っています。

山下俊

確かに、法務としてのキャリアの作り方は、もっと多様であっても良さそうですよね!すごく考えさせられました。
本日はありがとうございました!!

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